記憶

並木に花が咲いている坂道を

ふたりで歩く

訳もなく 宛てもなく

思い返す日々はただ美しいばかり

流した涙の行先は夜の静寂へ消えてゆく

あなたは今も変わらずにいるだろう

手紙に添えた言葉の意味ならもうないさ

それはまるで散りゆく花のよう

待ち望んだ季節の香り

揺れた髪が頬をかすめる

あの日の情景が僕の歩調を緩めるようだ

それはまるで散りゆく花のよう

待ち望んだ季節の香り

揺れた髪が頬をかすめる

あなたの照れ笑いが

僕の鼓動を狂わすようだ

六月

朝の空気を吸い混んで

雀が鳴いた街並みを歩く

君が見ていた昨日の景色を

僕は永遠に知ることはないまま

泣きたいほどのあの日の悲しみも

今になれば輝いて見えるし

すぐに不安になってしまう僕らは

大事にそっと確かめ合いながら

未来は不安だし 過去は消えていくし

今はしんどいし それでも進む日々

失ったことすらとうに忘れて

また失うと分かっていてもそれでも進む日々

六月の雨のよう

晴れ間が見えてきっとさようなら

咲き誇る花のよう

終わりのない美しさなんて

はじめからないんだ

六月の雨が止み

真夏の太陽が僕らを照りつける

咲き誇る花のように生きられたらなんて

そんなこと考えていたんだ

愛のうた

風が少し木漏れ日の影を揺らし

新しい季節の始まりを告げる

僕は何故かふいに寂しくなって

懐かしいあのメロディまた口ずさむ

変わる景色の中で変わらないものを探し

君の声が聞きたくなる だから今

揺れるリズムに乗って愛の唄を歌おう

涙やため息もすべて夜に消えていく

忘れられぬ悲劇もたくさんの過ちも

明日への糧となり 道は続いていくのさ

澄んだ空と水面に映る青

美しい花が咲き 鳥は自由に飛び交う

僕は一層君に会いたくなって

懐かしいあのメロディまた繰り返す

やがてあの花の名も この街の匂いも

すべて忘れてしまうのでしょう だから今

ゆらり 風に吹かれ 愛について話そう

僕らの未来はきっと素晴らしい色

同じ景色を眺め同じ記憶を集めよう

明日は今日よりも少し過ごしやすそうさ

そして今

ふたり手を取りあって 愛の言葉を交わそう

穏やかな毎日を君と過ごしたいのさ

何気ない瞬間のその一つ一つが

君と僕を繋げている それを幸せと呼ぼう

ささやかな幸せを 君と見つけたいのさ

休日前夜

明日の朝食はパンにしよう
ジャムを塗って コーヒーも入れよう

豆はキリマンジャロのミディアムロースト

昔は苦手だった酸味も 今や欠かせない味わい

読みかけだった小説も読めたら読もう

BGMもかけよう ボサノバはどうだろう

スタンゲッツのレコードがあったはずだから

とりあえず 今日はもう眠ろう

寝過ごさないように アラームを忘れずに

 

春風

六畳の窓辺から見上げた空に

遠くひこうきが雲を描いた

どこへ行く宛も持たぬ僕はただ

そっとやり過ごすささやかな日常を

どこか懐かしいやわらかな匂いに

月日の流れを知る

風は新たな季節を告げて

今君の街にも春が来る

揺れるカーテンの隙間から光が差し込む

ニ度と戻れない時の中で

僕ら巡り合って恋をする

きっと素晴らしい世界がそこから始まる

この素晴らしき世界で

高く澄んだ空 水面に映る青

季節の花が咲き 鳥たちは自由に飛びかう

愛しい人たちを想いながら

ブルースに乗せて愛を唄う

この素晴らしき世界で私は生きている

 


The sky is high and clear

The blue reflected on the water

Seasonal flowers bloom and birds fly freely

Thinking of those I love

Singing of love on the blues

I'm living in this wonderful world

二月の雨夜

夜更けの街に哀しみの雨が降り注ぐ

六畳の静寂を打ち破るように

秒針の音だけが絶えず鳴り響く

二月の冷気は僕の体温を奪い去り

眠れずに憂い嘆く僕はあなたのことを考えている

もうすぐ春が来るというのに

あなたの住む街では雪の予報と聞きました

いつからかもう雪で喜べなくなってしまった

移りゆく季節とともに

少しずつ大人になった僕たちは

一体何を得て何を失ったのだろう

変わらないものなんて何一つないと知った

どうかあなたが凍えずによく眠れますようにと

祈るように目を閉じやがて夢の中へ落ちていく