温泉旅館

10年ぶりに僕は日本で一番好きな温泉旅館へと足を向けた。長い運転時間も遠い田舎の風景も、子供の頃はすべてが斬新で魅力的だったのに、大人になった今それほどの感動はなく、すんなりと到着してしまった。この場所は10年前と比べてずいぶんと変わってしま…

Twilight

日の沈む頃、黄昏色に染まった空のコントラスト、遠くに描かれた一筆の飛行機。夕方五時のチャイムが響き、一番星が静かに瞬く。その景色が好きだ。でもその時間は一瞬で、少し目を離せばすぐに夜の闇に飲まれてしまう。そして不意に僕らは、いつのまにか遠…

月夜の祈り

そよ風の匂いや空や木々の色めきに 気づかぬまま過ごす人も少なくないだろう 画面に目を伏せて人々が行き交う街 切手を一つ添えてあなたに手紙を贈ろう 争いのない時などないと分かっているけれど 今夜だけ同じ星を誰かが見られたなら 余裕のない日々の中で…

思い出はいつも輝いてみえる

あっという間に月日は流れ、幾度めかの冬を迎えようとしている。今年も色々あったな。 急激な夜の冷え込みに感傷に浸れば、ふと思い出すあの頃の記憶。木漏れ日の射すキッチン、散らかった居間、石油ストーブの匂い。今はもう戻れない、家族の風景。 思い出…

ねむりの森へ

あなたの寝息を聞きながら 僕はそっと眠りにつくのです 今日の一日が穏やかであったこと あなたがそこにいてくれることに 安堵しながら 感謝しながら 明日も同じように陽が上り 穏やかな夕暮れが訪れるようにと おまじないを一つ胸に唱え 夜に思いを馳せるの…

Blend Life

朝は一杯のコーヒーと レコードから始まるルーティーン 観葉植物に水をやって 読みかけの本を手に取って ゆるりと流れるミュージック Bill EvansにGerry Mulligan 外から入り込んでくる風に 身を委ねて揺れるハンモック これからなんて誰もわからないし 何を…

11月の風

木々の葉は散り、風はざわめく。 何故お前はここにいるのかと 問いただすように轟々と鳴り響く。 不意に僕は居た堪れなくなる。 長くなった影、短くなった残りの月日に 焦燥に駆られあてどなくまた歩き始める。 成すべきことと、相反する今の自分を見つめ直…

記憶

並木に花が咲いている坂道を ふたりで歩く 訳もなく 宛てもなく 思い返す日々はただ美しいばかり 流した涙の行先は夜の静寂へ消えてゆく あなたは今も変わらずにいるだろう 手紙に添えた言葉の意味ならもうないさ それはまるで散りゆく花のよう 待ち望んだ季…

六月

朝の空気を吸い混んで 雀が鳴いた街並みを歩く 君が見ていた昨日の景色を 僕は永遠に知ることはないまま 泣きたいほどのあの日の悲しみも 今になれば輝いて見えるし すぐに不安になってしまう僕らは 大事にそっと確かめ合いながら 未来は不安だし 過去は消え…

愛のうた

風が少し木漏れ日の影を揺らし 新しい季節の始まりを告げる 僕は何故かふいに寂しくなって 懐かしいあのメロディまた口ずさむ 変わる景色の中で変わらないものを探し 君の声が聞きたくなる だから今 揺れるリズムに乗って愛の唄を歌おう 涙やため息もすべて…

休日前夜

明日の朝食はパンにしようジャムを塗って コーヒーも入れよう 豆はキリマンジャロのミディアムロースト 昔は苦手だった酸味も 今や欠かせない味わい 読みかけだった小説も読めたら読もう BGMもかけよう ボサノバはどうだろう スタンゲッツのレコードがあった…

春風

六畳の窓辺から見上げた空に 遠くひこうきが雲を描いた どこへ行く宛も持たぬ僕はただ そっとやり過ごすささやかな日常を どこか懐かしいやわらかな匂いに 月日の流れを知る 風は新たな季節を告げて 今君の街にも春が来る 揺れるカーテンの隙間から光が差し…

この素晴らしき世界で

高く澄んだ空 水面に映る青 季節の花が咲き 鳥たちは自由に飛びかう 愛しい人たちを想いながら ブルースに乗せて愛を唄う この素晴らしき世界で私は生きている The sky is high and clear The blue reflected on the water Seasonal flowers bloom and birds…

二月の雨夜

夜更けの街に哀しみの雨が降り注ぐ 六畳の静寂を打ち破るように 秒針の音だけが絶えず鳴り響く 二月の冷気は僕の体温を奪い去り 眠れずに憂い嘆く僕はあなたのことを考えている もうすぐ春が来るというのに あなたの住む街では雪の予報と聞きました いつから…

憂の季節 指先は冷えたまま 夜風に溶けていく煙を見ていた いつまでも残る苦い記憶と 後味の悪さを噛み締める 眠れぬ夜に鳴り響く 秒針の音に苛立ち耳を塞ぐ 今日が明日に変わり 明日が今日に変わる 迫り来る朝焼けに照らされて 煙はどこかへと消えていった …

春の夢

誰にも知られず咲いた小さな花は やわらかな陽射しの中で 風に揺られて散ってゆきました 風は儚い想いを運んで 何処かへと消え去ってゆきます 僅かに甘い匂いを残し 穏やかな春の訪れを 僕にそっと知らせるのです やがてあの花の名前も春風も すべて忘れてし…

おやすみ

ああ また今日が終わろうとしている あんなにも澄んだ青空だったのに もう少しでどこかへ どこかへ行けそうな気がしていたのに もう空はあんなにも綺麗な グラデーションになってしまった 窓の外を見ながらため息をひとつ タイムラプスの映像を 見つめるだけ…

街を歩けば

街を歩けばいつもと変わらぬ風景 渡鳥が空をゆき電車の音が遠ざかる 忙しげに揺れ動く日々の中で 私がいまここにあること それを奇跡と呼べるのならば 写真の一枚にでも残しておきたい けれども私はここに一人 だから私は言葉を紡ぐ 何気ないこの一瞬を噛み…

珈琲旅

ブラジル スマトラ タンザニアどこへも行けないそんな日はコーヒーで世界旅行へ

夜空の光

シリウス ベテルギウス プロキオン 静かに佇む夜の闇に 未だ届かぬ星の光 いつか何億光年という時を超え 私が見つけるその時は その輝きをあなたと名づけよう

私の知らない無数の悲しみが 今雨となって街へ降り注ぐ あなたの知らない私の悲しみは まるで鏡のように窓に映り込む 静けさにぽつりぽつりと雨音ひとつ 雑然と散らかった部屋に私はひとり 歩き出そうとする私を 雨の音が邪魔をする やがて水溜まりは海とな…

帰郷

夕焼けの空に染まる街 黄昏色のグラデーション 何処からか風が吹き抜けて あたりは一層静かです あれから何年経ったのか 再び僕は帰ってきた 満たされぬ日々を眺めては 空の高さに背伸びする 街にあかりが灯る頃 風に吹かれた髪がなびく 夕べの香りが際立て…